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ここはニコニコ生放送にて活動中の声劇団体【声劇×色々NN】にて 製作・放送されているオリジナル・ストーリー 『Alice+System(アリス・システム)』のウェブサイトなっております。
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【Eschatology(終末論):荊】


ある城に一人の王子が産まれました。
王は城に12人の魔女を呼び王子が幸せになる様に順番に魔法を掛けてもらいました。
ですが、呼ばれなかった13人目の魔女が怒って王子が18歳の誕生日に死んでしまう魔法を掛けてしまうのです。
慌てた王の元に、残された12人目の魔女が現れると、掛けられたら死の魔法を眠りの魔法へと変化させました。
かくして王子の18歳の誕生日、眠りに着いたのは王子ではなく、王子を取り囲む全ての人間でした。
王子はそれからというもの、凍りつくような孤独の中をずっと一人で生きていくのでした…

 

***************************************

 

赤頭巾の振るう剣は紛れもなく戦う為の剣だった。鉄の音が耳障りに響く。
オレはその剣を受け取めながら、どうするべきなのかを決め兼ねていた。
赤頭巾を殺す事が、今のオレにできる事なのだろうか。果たしてそれしか道は残っていないのだろうか。だが困惑に手元を掬われる事はなく、オレはただ、赤頭巾を殺さないようにと剣を交える。
ほとんど、本能的に返す剣。
殺すつもりは少しもなかった。


はずなのに。


振り上げられた剣を避け腹部に切り掛かる様に剣を滑らせる。
それはオレの中では受け止められるべき物だった。
だけど、俺の手に伝わる感触は鉄の持つ硬質なものでは無く、柔らかな何かに突き刺さる感触。

「…な、っ」
「ぐ、ぁ…っ」

想像もして居ない事態に身体が硬直する。働かない思考はその剣を抜く事すら出来ないまま。
赤頭巾の服が彼自身の血で染まるのを確認すれば硬直していた身体が震える。

「離れろよ…、馬鹿!離れろ!」
「馬鹿は、…お前だろ…っ」

オレの言葉なんて聞こえていないように、赤頭巾はその身体を剣に向かって押し進める。
引き剥がす事もできないまま、まるで抱擁でも交わすように寄せられた体重を、
剣で貫いた状態で支えさせられていれば、腕の中で赤頭巾は幸せそうに笑った。

「こんな事…頼めるの、お前しか…」

血にまみれた身体はどこも赤く、なのに不釣り合いな程に、微笑む相手に視界が滲む。
相手を受け止めたまま膝をつく。溢れた涙が赤頭巾の頬に落ちても、
それはアイツの血を洗い流す事も出来ない。

「くそ…っ、なん、だよ…!オレはどうすれば良かったんだよ…!」
『おめでとう!赤頭巾は親友の手に掛かり、幸せに眠りにつきました。めでたしめでたし
…ってね!ははははっ』
「…何が、おかしい」
『いやあ…築き上げられた物が壊れるのは、なんて楽しいんだろう!
ねぇ…赤頭巾を救えて良かったね?』
「っ…こ、の…!」

脳内を掻き乱すような笑い声に、オレは赤頭巾の握る剣を取り声が聞こえる方向へと振り上げた。
空を切るだけの行動としりながらも、怒りを、嘆きをぶつけるように剣を振るう。

「っ、」

その剣に何かが当たる感触。不意に視界と思考を剣先に向ければ、
そこには黒い鳥籠のような物に捕らわれたシンデレラの姿があった。

「シ、シンデレ、ラ…」
「荊!落ち着け!」
「なんで…、お前…」
「影に惑わされるな…、剣を下ろせ!アイツの…赤頭巾の物語を無駄にするな!」

目の前の状況を把握するのに思考が追い付かないまま、シンデレラの口から、赤頭巾の名前が出る。
振り上げた剣が震えているのが解る。俺の手が震えているのだと気付いたのはその後だった。

「…シンデレラ、いつ、から」
「え…?」
「オレが…あいつを殺したのを…見ていたのか」
「っ、…あれは…」
「オレが、親友を手に掛けたのを…っ」
「…荊」
「オレが、…救う力のないオレが…、アイツを、」
「荊、落ち着け!あれは仕方ない事だ!」
「仕方ない?親友を殺したのに!生きれたかもしれないアイツを殺したのに!
……あぁ、そうか、お前も、心の中ではオレを軽蔑してるんだろう」
「…っ、何を!僕は…」
「アリスにも言われたよ…オレは力なんて持たない、ただの弱虫だってな!」
「アリスに…?」
「どうせオレには何も救えない!何も出来ない!…大切な物ひとつ守れない!」
「…荊」
「ならどうして!どうしてオレは生きてるんだ!こんな…こんな事なら…、っ」
「っ、ダメだ!その先を口にしたら、っ」
「オレは生きていたくなんて無かった!」

叫びが、喉奥から零れれば、それに呼応するように粒子の荊が自身に絡みつく。

 

***************************************

 

オレが赤頭巾と出会ったのは、10歳になる頃。それから数年して、シンデレラと出会った。

「…お前、女?」
「…おい、この野蛮な男はなんだ」
「あはは、二人ともしかめっ面して。仲良しだなあ」
「赤頭巾の能天気さは見習いたい位だよ」
「どこか抜けてるというか…。こんなんだから僕の物語まで迷子になるんだよ…」
「赤頭巾が寄り道するのは、物語として正しいからいいんだよ!」
「いや、寄り道するにしたって…」
「物には限度があるだろ…」
「そう!そうなんだよ。こいつってほんと、予想以上に」
「馬鹿なんだろ?そんなのもう解ってる。…問題なのは、本人に自覚がない事だ」
「…自覚?えーと…俺は、二人が仲良くなればそれでいいけど」

オレとシンデレラを見て楽しそうに笑う赤頭巾に、思わず頭を抱える。
隣を見ればシンデレラも同じ考えだったようで、大きなため息を付いていた。

「…ったく、しょーがねぇから仲良くしてやんよ」
「別に…頼んでない」
「可愛くねぇなあ。ほら、握手」
「…は?」
「いいから!ほら!」
「な、勝手に…っ」
「お前が悪いヤツじゃないって解ったから、今日から友達。今日から親友」
「…はぁ?お前…恥ずかしくないか、それ」
「荊はいいヤツだよ。シンデレラだって気に入るって」
「まず僕は君を気に入ったとは言ってないが」
「ん?でもこうして来てくれたじゃん。俺の親友に会わせたい、って言っただろ?
俺は二人が仲良くなってくれたら幸せだけど」

毒気のない赤頭巾の笑顔が、脳裏に焼き付くようだった。

 

***************************************

 

荊の身体を光の粒子が締め上げるように包む。思わず手を伸ばすがそれはぎりぎりで届かなかった。

「荊!…お前まで、っ」
「…赤頭巾が」

荊の姿は、何十もの光の蛇に絡み付かれているようにも見えた。
微かに聞こえた名前に必死で耳を傾ける。

「赤頭巾が…、お前に、ごめんって…」
「…っ、あの、馬鹿」
「オレに…何が出来たんだろう。あの子も救えず、アイツまで殺して」

ずぶずぶと光の蛇に飲み込まれながら、荊の身体が朽ちていく。
もう一度手を伸ばせば後ろから小さな身体にしがみ付かれた。

「だめ!お兄ちゃんまで消えちゃう!」
「アリス、離せ!荊を……

 

 これ以上親友を見殺しになんて出来ない!」


ボロボロと足元から朽ちて行く荊から視線を外す事は出来なかった。
まるで地面に飲み込まれて行くような姿に、無理と解っていても手を伸ばさずにはいられなかった。

「シンデレラ…、お前」

名前を呼ばれ視線が合う。
消えていくはずの荊は、笑っていた。

「親友なんて恥ずかしいって言ってた癖に」

その声が届いた瞬間、彼の身体は地面に飲み込まれるように消えた。
荊の代わりに一つの薔薇の花が落ちれば、影がそれを掴む。

『写し見だからねぇ…亡骸は君の知らない所で朽ちてるだろうさ。荊姫は自分と言う存在を否定し、
絶望に飲まれて死んでしまいました…めでたしめでたし。…ふふふ』

指先でつまみ上げられた薔薇は、影に侵食されるように灰になって落ちていった。
僕はそれを、見つめることしか出来なかった。

To be continued

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【Eschatology(終末論):人魚】

 

海の底で幸せに暮らしていた人魚。
でも運命は彼を水底より引き上げるのでした。
ある日王族の乗る船の沈没で一人の人間に恋に落ちてしまうのです。
その人間を助けた人魚は、同じ人間になろうと魔女に姿を変えてもらうのでした。
ですが人魚はその姿を恋した相手に見せることも叶わず、彼は人間の記憶に残ることすら許されず、たった一人地上に取り残されてしまうのでした。
誰に愛される事もなく、たった一人で…。

 

***************************************


「綺麗な髪ね!」

まだ声を持たない私に声をかけた、小さなお姫様。
黒い髪を赤いリボンで結んだ姿で近づくと、光の反射する私の髪を撫でて、まっすぐ微笑んだ。

「海の色と同じだわ。…あなた、お名前は?」

唇を動かしても届かない言葉に申し訳なく俯くも、少女は何も気にしないとでも言うように隣に座り、
小さな手で私の手を握った。

「名前なんて、いっか。綺麗な人魚さん、私と貴方はお友達よ」

屈託なく微笑む姿を、思えばいつも見てきたのだ。

 

***************************************

 

黒い影が目の前に現れたあの日から、私の願いはひとつだった。
存在を認められたいと。
…あの日私を見つけてくれた少女の様に、他の人間にも私を認め、そして傍に居て欲しいと。
いつから私の願いは、こんなに歪んでしまったのだろう。

「貴方を愛していたのは、間違いでも、強制された感情でもないもの」

彼女はあの日の笑みを浮かべると、毒を含んだ唇で、最期の口付けを交わす。
必死に手を伸ばした先にあったのは、彼女のあの温かい体ではなく、
空しく主人を失った、彼女のドレスだけだった。

『さすが!一流魔女の秘薬は効き目が違うねえ。キミの代わりに白雪はこの世界から消え去った』
「…お前、は」
『はあい、人魚。キミの願いは何だっけ?人に認められたい?…ふ、ふふ、はははっ!
ねぇ見てごらん!キミの周りを!キミが認めて欲しかった人物は、今やどこにも居ないじゃないか!』

言われて力なく辺りを見回せば、真っ赤に染まる赤頭巾、その横に灰になった茨、
そして手の中で形をなくした白雪。

「あ…ぁ、」
『こんな世界で、キミが生きてる価値ってあるの?キミは主人公にはなれない。
だって結局一人じゃないか!』

影の言葉は自分の心臓を抉り出すのではないかというほどに、強く突き刺さる。
手の内に残る布を強く握り締めると、自分を奮い立たせやっとの事で繋ぎとめていた糸ですら、
単純に切り離された感覚に陥る。


ああ、そういえば。


あの人に良く似た、シンデレラ。

彼は、どうしているのだろう。


「シン・・・デレ、ラ」

おぼつかない視線で辺りを見回す。そこに居たのは鳥籠に囚われた少年の姿だった。
記憶の中で笑って居た、最愛の友人たちの中で、唯一残された少年。
その表情は読み取る事はできない。

「ああ…君も、私を笑うかい?認められる事に固執し、周りが見えなくなった結果、

私は全てを失った。私を愛してくれた人も、常に傍に居て、笑いあった友人も」
鳥籠の中のシンデレラは何かを叫んでいるようだった。
でも私にはもう、何も聞こえない。
私を支えていた物は、音も無く崩れてしまっていた。

「君のことも、きっと失ってしまうのだろう」

両手で視界を覆えば、そこは暗闇に変わる。
ああでも、そもそも空は晴れていただろうか。
私の空は、晴れていたのだろうか。

 

***************************************

 


華やかな宴を物陰から見つめ、私は私の物語が終わりへと繋がることを自覚した。
海底の魔女から手渡された小瓶に詰められた毒。
それを飲めば、私は救われていたのだろうか。

「…人魚、どうしましたの?」

顔を上げれば白雪が不思議そうに覗き込んでいた。
ああ、思えば出会ったあの日も彼女はこうして私をみつけて微笑んだのだ。

「貴方が『居る』事が、私達には普通なんですわ。だから…生きてくれる貴方を臆病者なんて言うつもりはありません」

そう言って毒の入った小瓶をしまう彼女に、私は複雑に笑むしかなかった。
私は生きたかった。
物語を歪ませてしまう運命でも、君を幸せにできない未来でも、私は生きていたかった。

「…白雪、でもそれを受けとれば、君の物語は…」
「構いませんわ。森の奥で暮らすのに飽きていた頃ですもの」
「飽きるって…君らしいけどね」
「それに、私毒りんごを食べても生き返りますの」
「それは…便利だねえ。どうやって?」
「王子様の口付けですわ!…でも、王子が好みじゃなかったらそのまま寝たフリでもしてようかしら…」
「ふふ…それは失礼な話だ。一体君の王子様はどんな人なら許されるんだい?」
「…、そうねぇ」

彼女の白い指先が、髪をかきあげる。

それに呼応するように、柔らかな海風が吹く。

 

「強く、一途な人がいいわ」

 

「君を探して森の奥まで来るんだ、きっとそんな王子だよ」

私のその言葉に苦笑した彼女の思いを。
今になってようやく気づかされた。

 

***************************************

 

「白雪・・・!」
『腕の中で哀れに消えたお姫様に会いたいかい?その方法は知っているだろう?』

視界の先で崩れ落ちる人魚に、影がおかしそうに囁く。
なぜ僕はこの場所に居なければならないのか。
答えは当に出ている。
だけど、何も出来ない自分が歯がゆかった。

「人魚……、人魚!耳を、貸すな…っ!」

手を伸ばしても届かない。これでは茨の時と同じ。
でも絶望してはいけない、僕までが影に飲み込まれてしまったら、一体誰がアリスを救うんだ。
彼女だけは。
この歪んで狂った世界から、彼女だけは幸せな世界へと返してやらないと。

「私が…弱かったからこんな結果に…」
『君って存在は本当に哀れだ!愛する人には認められず、唯一君を愛した人間は君を想って消えた!』
「全ては、私のせい…」
『主人公ごっこは楽しかったかい?でもねえ、受け入れる器のない存在に、
世界は動いちゃくれないのさ』
「やめ、ろ…っ!お願いだ…」

視界に映る世界は、まさに闇だ。
僕が守ろうとした世界が、それぞれが守ろうとした世界が、簡単に崩れていった。
頬を伝い視界を滲ませる存在に、気づきながら僕は見届けるしかできない。

『汚れた世界に幕を引こう、君のお話はめでたしめでたしじゃ…ないけどねえ』
「白雪、すまない…。私は、」

そう言って取り出した短剣。
その先の行動はわかっていて、僕は見つめた。
彼の…最後の親友の物語の最後を。

「…僕は最後まで、人魚の存在を認め続けるんだ…っ、」


***************************************


手のひらの短剣。
あれほど怖かったのに、今は何も怖くはない。
正確に言うなら、きっと今は何が起きても何も思わないのだろう。
そっと首に宛がう。
見上げた空は、あの日彼女が居た空と同じ色だった。

「今、君を起こしに行くよ。…待っててくれるかい?」

素直じゃない彼女は、きっと怒ってしまいそうだけど。
そんな事を考えれば、気持ちは不思議と穏やかだった。
突き刺した短剣から、溢れる血液が彼女のドレスを染める。
力無く崩れた体。
解放。
ただ一つあげるならば。

私の物語は、「めでたしめでたし」で締めくくれる。
赤頭巾や茨やシンデレラやアリス、…そして白雪、君たちが居てくれたのだから。

To be continued

 


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