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ここはニコニコ生放送にて活動中の声劇団体【声劇×色々NN】にて 製作・放送されているオリジナル・ストーリー 『Alice+System(アリス・システム)』のウェブサイトなっております。
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【Eschatology(終末論):赤頭巾】


あるところに、一人の少年が居ました。
少年は母親に言いつけられ、森のおばあさんにパンと葡萄酒をもっていくように頼まれたのです。
ですがその少年はその途中、オオカミに出会い寄り道をしてしまうのでした。
少年はオオカミと出会い、
少年はオオカミに追われ、
少年はオオカミに追われ、
少年はオオカミに…

 

***************************************

 

―…思えば世界は狂っていた。そんな事は解っていながらも、俺は生きていくしかなかった。
狂った世界で俺は、ただ一つのコマとして動かされ、生かされていた。

荊の手に剣が生み出されるのを見て、俺も手の中の銃を剣に変える。
実際剣に変わるかなんて、試した事もなければ考えた事もなかった。
ただこうして今、俺の手に剣が馴染むというなら、それが正しい道筋なのだろう。

「…おい、さっきの威勢はどうした?こないなら俺から行くぞ?」

剣を構えたまま後一歩を踏み出せない荊に、【彼らしさ】を思いながら
俺は終わりへの道筋を作る為に一直線に荊目掛けて剣を振り下ろす。

「っく!」
「受け止める余裕があるなら来いよ…、それとも、お前が死ぬか?」
「うるせぇ…っ、黙れ!お前は…っ」
「お前は俺の知ってる赤頭巾じゃない、とでも言うか?…そう思いたいなら思えばいい。
その方が気兼ねなく俺を殺せるならな!」

受け止められた剣は一時均衡を保っていたが、相手の一瞬の気の緩みに触れ合う剣先を払い退ける。
一瞬の間合い、荊は一度後方に飛び体勢を整える。

「なんで…なんでそんな事にこだわるんだよ!死ぬとか、殺すとか…わけわかんねぇよ!」
「だったらお前は一生この世界で生きていくつもりか?俺は日々敵に追われ、お前だってなす術もなくあの塔に閉じ込められて、人魚だってそうさ、自分が居るってのにあの世界じゃ誰もあいつを認めやしない、白雪はただ毎日を繰り返し、シンデレラは―…
ずっと、毎晩痛い程に孤独を味合わされる」
「それでも…っ」

不意にシンデレラから預けられた銀時計の針の音が耳に響くと、そのたった一瞬の内に荊は俺の間合いに入りこんでいた。
とっさに剣で受け止めれば、元より使い慣れていない俺の剣は相手の剣に押され耳障りな音を立てた。

「…っ、」
「それでも!オレには…大切な世界だ!」
「…っは、いつまで正義感を」
「お前らがいる、大切な世界だったんだ!解れよ!…確かにオレは浅はかだった。
あんな影の言う事を何も考えずに受け入れて、…それでも、それでも!オレがあの城から出てお前らの世界を変えられるなら、……それはオレの中では正しい道筋なんだよ!」

ぎりぎりと剣が押される。
詰められる間合いをやっとの事で押し返せば、その反動で切っ先がずれて俺の腕を掠めた。

「うっ、…!」

熱い、焼けるような痛みが一瞬腕に走る。それと同時に服が生暖かい血液を吸い張り付く感触。
自身を銃で撃ち抜いた時に感じる物と限りなく酷似したそれらは、俺に結末の正しさを物語っているようだった。
痛みも、血液も引かない。…これが俺の正しい道筋だと。
左腕に受けた傷は皮肉にも俺の弾丸があいつを傷つけた位置と同じに見えた。
対峙する姿で鏡合わせのように傷を負う。

「ふ…っ、ようやく切ったな。もう、躊躇はないか?」
「オレは馬鹿だから、シンデレラや人魚みてぇに言葉でお前を諭すなんて出来そうにねぇからな。…だったら、オレのやり方でお前みたいな馬鹿に解らせる!」
「くく…っ、理解させられるのはお前だよ。荊」

どちらともなく剣を振り降ろせば、鉄の弾き合う音が木霊する。
薙ぎ払っては、振りかざし、切りつける。
それを受け止め刃先を滑らせれば間合いを取り向こうが切りかかる。
それを受け止めまた剣がぶつかる音がする。
互いの力の差は無いかのように、攻勢は幾度も続く。
耳慣れないはずのこの音を、俺はどこかで聞いた気がした。

 

***************************************

 

あの時はまだ俺たちは幼く、物語すら進んでいない頃。
そういえば剣を教えてくれたのは目の前にいる荊本人だった。

「いつか誰かを守るため、男は強くなくっちゃな!」
「…守る人が現れてから決めたら?君の場合そっちの方が問題だよ」
「何だってえ!」
「シ、シンデレラ!荊も!ケンカは良くないって。それより、剣の使い方教えてくれるんだろ?」
「おう!って、オレも父さんに教わったんだけどさ。お前らは親友だから特別に教えてやってもいいんだぜ!」
「とか言って…えばりたくてうずうずしてるんだろ。僕はそういう野蛮なものは興味ないね」
「ははは!じゃあ俺が教わって、何かあったらシンデレラを守るよ!」
「じゃあオレは二人とも守ってやる!」
「…、僕、なんか気に食わない。ちょっと荊!僕にも剣!」
「お、やる気になったな?よし、オレの動きをよーく見ておけよ?」

小さな自分達の声が、脳裏に響く。
剣が打ち合う音を、俺は確かに聞いていたんだ。二人と一緒に。

 

***************************************


鉄が弾き合う音に紛れて、小さな金属音に気が付く。
攻勢の途中で、預けられた銀時計が地面に引き寄せられるように落ちていく。
とっさにそれに手を伸ばそうとした瞬間、胸元を抉るような痛み。

「な…っ!」
「ぐ、…っ、…ぁ」

荊の剣は真っ直ぐに俺の体に刺さっていた。切った本人がその事実に驚き剣を引き抜こうとするその行為を、俺は引き止めるように荊の剣に手を伸ばす。

「ば…、馬鹿!やめろ!」
「っ…ぅ、馬鹿、は…お前だろ…っ、ぐ、!」

今まで脳を撃ち抜いて来た時とは全く別世界の感覚に、心臓は激しく脈打つ。
剣に縋るように掌を滑らせれば、掌にも熱が走るようだった。
震える手で剣を握るその手の上から、血に汚れた俺の手を宛がう。しっかりと剣を握り
ゆっくりとそれを自身に埋め込む。

「ぅ、…っ!は、ぁ…っ」
「や、やめろ!馬鹿!離せ!離せよ!!」

体ごと離れようとする荊の肩を逆の手で掴む。
体重を掛ける様に相手に寄りかかれば、息をするのでさえ困難な状況に、笑みが浮かぶ。

「おま…っ、な、何笑ってんだよ!ふざけんな!…笑うなよ、…なんで」
「…巻き、込んで…ごめん。……でも、…俺の願い、叶えてくれんの、お前、しか」
「喋んな!くそ、くそ…っ!なんで、だよ!なんで抜けねぇんだよ!オレは、…何で、震えてんだよ…!」
「…いば、ら」
「…っ、」

 

「ありがとう、親友。それから、あいつにも、…ごめん、って…」

 

「―――…っ、…そ、だ、嘘だ、やめろって。冗談よせよ、おい、なぁって!………、ぅ、ああああああああああああああ!!!」

 

***************************************

[side:シンデレラ]

「きゃあっ!」

不意に鳥かごの中にアリスの声を聞く。驚いて振り替えればやはり影でできた鳥かごの中に少女はいた。

「いつの間に…」
「シ、シンデレラ、の、おにぃ、ちゃ…」

少女は体全体を震わせ、今にも落ちそうな涙を目に溜めて僕を見つめていた。
困惑する頭のまま彼女に駆け寄れば、俯く拍子にその涙を隠すことなく零れさせながら
一枚の写真を握りしめていた。

それはいつか僕らが一緒に撮ったもので…。

「お兄ちゃん、居なく、なっちゃった…!赤頭巾の、お兄ちゃん、っ、写真から…っ」
「…何を、」

嫌な胸騒ぎに赤頭巾と荊が居た方向に視線を向ける。
荊に寄りかかるようにして立つ赤頭巾には、剣が刺さっていた。
背中を貫くほどに深く突き刺さるそれを目の当たりにして、思わず後ずさる。
だがそれも一瞬で、出ることの出来ない影の檻に掴みかかれば、拳で何度も檻を殴りつける。

「…っ、ふざけるな!お前、僕との約束を忘れたのか!…僕を、置いていくなと、…あれほど……っ!」

涙は、出なかった。
ただ、大きな虚無感が胸に残る。これは毎夜の砂の城が無くなる時とは比べものにならない程大きく、重いものだった。

「あの…、馬鹿が…っ!」

To Be continued

 

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