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ここはニコニコ生放送にて活動中の声劇団体【声劇×色々NN】にて 製作・放送されているオリジナル・ストーリー 『Alice+System(アリス・システム)』のウェブサイトなっております。
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【Eschatology(終末論):白雪】


ある城に一人の娘が産まれました。雪のように白い肌、黒檀(こくだん)のような艶やかな黒い髪を持った少女はすくすくと育ちました。
ですが彼女の母親が先立ち、継母(ままはは)の陰謀によって彼女は深い森へと捨てられてしまうのでした。
そこで彼女は小人が住む小さな小屋を見つけると、そこで生活するようになるのでした。
いつまでも
いつまでも
いつまでも…。

 

***************************************

 

私が彼と出会ったのは、まだ母が生きていた頃。母の療養も兼ねて遠出した海のある国に、彼は居た。
透き通る海の様な色をした髪と目は私には珍しく、そしてとても美しい物だった。
言葉は通じているけれど声を持たない彼は、私にとって初めて出来た友達だった。

次に会った時、彼は人魚ではなく人となっていた。
自分の愛する人の為に種族を捨て新しく生まれ変わろうとした彼を、私は友人としてとても誇らしく思い、そしてその強さに憧れた。


***************************************


果たして彼は、その時の彼と同じなのだろうか。
姿も声も変わらない。だけど何かが違う。…もしかしたら違わないのかもしれない、
私が知らないだけで。

「ああ…、赤頭巾は、消えてしまったみたいだね…」
「え…?」
「影から受け取った力なのかな…、私にはわかる。皆の不安や恐れ、悲しみも。早く、
私を受け入れていれば、彼も消える事はなかったのに…」
「…それだけ?」
「何がだい?」
「消えた、って…どういう事ですの?赤頭巾が…あんなに仲良くしていたのに…、
消えた事に対して……そんな、」
「…可哀想な白雪」
「え…?」

彼の掌が私の頬に触れる。冷たいそれが触れると反射的に肩を竦めた。

「私達は所詮文字の上に生きる者。全ては定められた道筋でしかないんだよ」
「そんなの…解ってますわ!その道筋が狂ってしまったから、私達の物語は終わりを迎えられなくなった、だから、…それなら、私は…」
「君に何が出来た?」

穏やかに語り掛ける口調や声色は私の知る彼そのもので、視界が滲むようだった。

「か弱い君には、この濁流に飲まれるしか道筋は無かっただろう?…赤頭巾、彼は強い。彼の意志は始めからぶれる事はなかった。彼は彼の望む終わりを貫いた……ある意味、彼の物語は正しく彼を主人公として終わりを迎えたと言える」

頬を撫でる手が、首筋に触れる。流されるように顎を掬い合わせられた視線の先に見えた表情に、私は見覚えがあった。

 

***************************************


「…人魚、どうしましたの?」
「ああ、白雪か…。私を臆病者と言ってくれないか…?」
「じゃあ言い換えますわね。こんな場所でこの世の終わりみたいな顔をして、肩を落として泣きそうな顔をした臆病者さん。どうしましたの?」
「…相変わらず、君の物言いはストレートだねえ…」
「常に正直にあれ、と言う教育方針でしたのよ。……で、私の大事な幼なじみは何をそんなに落ち込んでらっしゃるのかしら?」
「……あの人に、私じゃない大事な相手が、いて…」
「まぁ…」
「海神様に話をしたら、この短剣であの人を刺せ、と…。出来ないのなら、どのみち長くは生きる事は出来ないのだから、と…これを」

彼の掌には深淵の海の底の様な深い青色の小瓶が乗せられていた。
私はそれを宝石のようにそっと手に取る。

「…なんですの、これ」
「毒だよ。それを飲めば……私は泡と消える」
「綺麗な物ほど恐ろしい、っていう法則は間違ってないみたいですわね」
「でも……私にはどちらも出来なかった。あの人を殺すのも、自ら命を断つ事も…。
私は…、生きていたい……」
「お馬鹿さんねぇ」
「え…」
「それを聞いて、私が貴方を見殺しにすると思いますの?これは私が預かります。
そうしたら、貴方は死ねないでしょう?」
「いや、でも…そんな事をしたら…」
「私は貴方に死んで欲しくありませんわ。それは私だけじゃない。
赤頭巾や荊やシンデレラ……それに、アリスも」
「白雪…」
「貴方が『居る』事が、私達には普通なんですわ。だから…生きてくれる貴方を臆病者なんて言うつもりはありません」

手にした小瓶を私の懐へとしまうと、安堵と戸惑いを混ぜ合わせた表情を浮かべ、
彼は笑った。


***************************************


「白雪、君の望む終わりはどこだい?日常を嫌う君は、何を望んで主人公になりたがった?」

彼の表情はあの時の物と似ていた。安堵と戸惑い、それが何によってかは解らないけれど。

「私は、認められたかった。もう、一人は嫌なんだ」
「確かに貴方は一人でしたわ。でもそれは…貴方の物語の中での話じゃない」
「白雪…」


「私は、貴方を好きだったわ。…物語が、進まないはずよね。来るべき王子様じゃなく、貴方に惹かれていたんだもの」


合わされた視線の先で、人魚の瞳が戸惑いに揺れた。
私に触れる手を取り、それを外させる。

「私だけじゃないわ。赤頭巾も荊もシンデレラもアリスも…貴方と言う存在を認め、惹かれていたから、貴方の傍に居たんじゃない。…それに気づかないなんて、やっぱり貴方はお馬鹿さんだわ」

胸元に手を寄せ、あの日の小瓶を取り出す。
小瓶の存在に気付き身体を強ばらせた人魚に、小さく微笑んだ。

「私はね、純真無垢なお姫様なんかじゃありませんのよ」
「白雪…何を、」
「言ったでしょ?貴方が一番嫌う形で私の物語は終わらせるわ」

私の意思に迷いはなかった。
この一瞬だけでいい。
彼の思考にも脳裡にも瞳にも、私だけを映してくれるなら。

「…確かに私は、このゲームの最中に何かをする事はありませんでしたわ。私は物語を統べる主人公になれるような器なんてありませんもの。でも…今は後悔してない。最後に貴方に会えたもの」
「私が、それを背負う。私が主人公になれば、君だって生きて―…」

 

「お断りしますわ。…私は、私の意志のまま物語を終える。私が貴方を愛していたのは、間違いでも、強制された感情でもないもの」

 

満面の笑みを浮かべ、掌の小瓶の蓋を開ければ、それを一気に流し込む。

「…っ!しら、…」

そして最後に、彼に触れるだけの口付けをした。
ああ、皮肉なものね。私の本当の物語は王子様のキスで目覚めるのに、
私の物語は毒の口付けで王子様毎消えて行くんだから。
抱き締めようと伸ばした私の手が、触れる前に消える。


それでも私は、幸せだわ。
最後の最後の視界には、貴方が私だけを見つめる、その姿を映せたんだから。

 

***************************************

[side:人魚]

唇が触れた。

それはほんの一瞬。

瞬きをした次の瞬間に、彼女は文字どおり『消えた』。


抱き止めようと伸ばした腕には彼女が纏っていたドレスがあり、無意識にそれを掻き抱く。
まだ耳には彼女の声が残るようだった。
身体を支えきれず、崩れるように落ちる膝。抱いたドレスが、私を抱くようにふわりと落ちる。
天を仰ぐ。
空の青と海の青が混じりあうような、そんな錯覚を抱く。

「…白雪、」

掠れた声が、空虚な空間に溶けて消えた。


To be continued

 

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