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[side:シンデレラ]
『君なら二人を、殺せるよねぇ?』
耳元で囁かれた声に嫌悪から鳥肌が立つ。
払いのけるように影を追いやれば、僕はその場から立ち上がる。
『おやおや…何か急用かい?今日のパーティーはまだ終わってないのに』
「うるさい。お前には関係ない」
言い捨てると無意識に虚像の城から走り出していた。
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[side:アリス]
久々にこの扉の前に立った。
以前あったときは、まだ私が小さい頃だった。あの5人にまた会えると思うと楽しみでもあり、そして今の混乱しているお話の世界に入るのは不安でもあった。
「みんな、大丈夫かなぁ」
ゆっくりと入り口の扉を開ける。まばゆい光の中を進むと見覚えのある人影に気づき歩みを速めた。
「白雪姫!」
「あら、…アリス!まぁまぁ、お久しぶりですわね」
「懐かしいなぁ…白雪姫は変わらないね」
「そりゃあこちらとそちらでは時間の流れが違いますもの。アリスは大きくなったわね」
白雪姫は私の前に少しかがむと、ゆっくりと私の頭を撫でた。
「そういえば白雪姫。なんだか最近、お話の世界が変なの」
「…、そう、ね」
「だから心配になって…、どうしたの?」
「なんでもありませんわ。なんでも…」
「…どうしたの?どこか痛いの?…泣きそうな顔、してる」
「気のせいですわ!ねぇアリス、また、皆と…一緒に笑いあいたい?」
「もちろん!アリスね、赤頭巾も荊姫も人魚姫もシンデレラも、もちろん白雪姫もみんな大好きだもの!」
「…そうね、私も大好きだわ」
「うん!」
「…アリス、私行かなければならない所があるの。だから…」
「ううん!お話できて良かった」
そう言うと白雪姫は姿勢を正し、光の道を造りだす。
「アリス、これからどこへ?」
「ええと…荊のお兄ちゃんの所、かな」
「そう…もし会えたら、よろしく伝えてちょうだい」
「わかった!」
こちらを見ずにそれだけ言うと、白雪姫は姿を消した。
「…?荊のお兄ちゃんの世界に行くのに、『会えたら』、って言った…?」
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[side:荊]
銃口は今も、オレの額へ狙いを定めていた。
真っ直ぐにこちらを見る赤頭巾の瞳には、笑みや冗談などはなくただ冷えて鈍く光ってる。
かちり、と銃を構えなおす音がいやに耳に響く。
なんだか互いの呼吸や鼓動でさえ、その音が脳内に直接響くようだった。
「…おい、冗談はよせよ…」
「冗談かどうか、引き金ひいてから確かめるか?」
「…っ!てめぇ、とうとう頭ん中まで腐ったか?」
「さぁね。…なぁ、荊」
「何だよ、この状況で昔話でもするか?」
現にどんな言葉をかけて煽ろうとも、赤頭巾の手から銃が離されることはない。
オレの言葉は気にならないとでも言うように赤頭巾は続ける。
「お前は優しい。優しすぎるから、周りを助けようとする。…でもな、人間には出来ることと出来ないことがある」
「そんな事くらい、わかって…」
「わかってないから、ああ言えるんだよ」
「なんだよ、何が言いてぇんだよ」
「このゲームには、主人公は一人だけ。それの意味がわかるか?」
「…だから、オレが主人公になって皆を」
「とりあえず、その銃降ろしてくれない?」
声の方へ振り返れば、金の髪がゆるく風に揺れた。
「…シンデレラ」
「やっぱり、最初に良いように踊らされるのは君たちか。まったく…」
「踊らされてなんてねぇよ!こいつが!」
言い返そうと視線をずらす、その瞬間。
たった一瞬だけ、泣きそうな赤頭巾の顔が視界に入った。
「このくだらない喧嘩は僕が預かるよ。荊、君のやり方に口は挟む気は無い。ただ、今は引いてくれないか」
「べ、別にオレは…」
「この僕が珍しく頭を下げているのに聞けないのか?」
「…下げてねぇし」
思うところは多々あれど、気づけばシンデレラが赤頭巾を庇うようにオレ達の間に立っていることに気づき、ゆっくりと距離を開ける。
「オレは、こんなゲームのやり方には絶対屈したりしねぇから」
「いいよ…その時は俺が一番にお前を殺してやるから」
「…くだらない」
二人の脇を通りながら、オレは痛感した。
もう昔のようには戻れないのだと。
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[side:人魚]
『やぁやぁ人魚姫!』
声の方に振り向けば、黒い影が楽しそうに笑っているように見えた。
「また…お前か」
『君の背中を押しにきたのさ!きっと一人で悩んでいるだろうからねえ』
「私には、思いつかない。存在を証明など…」
『この全ての世界の主人公になればいい』
「主人公に…?」
『この世界に君臨し、君が一番になるんだ。そうすれば、君は全ての人から愛され敬われる。求められ、君の存在は人々の心に刻まれるだろうさ』
「君臨、…そうすれば、あの人も私を見てくれるとでも?」
『そりゃあねぇ。君だけを見て、君だけを愛するようにする事だって可能さ』
「一人じゃ、なくなる…と」
ぐらぐらとした吐き気が、ゆっくりと静まる。
視線の先で揺れる水面に映る自分の顔が笑むようにも泣いているようにも見える。
「私は、一人では生きてはいけない」
『そう…君の心は脆く繊細だ。人を求める余りに君の心がぼろぼろと傷ついていく』
影の手のひらが、私の胸に触れる。
はっきりと姿のわからぬそれが近づくと、真正面からその声は発せられた。
『拒絶されるなら…壊してしまえばいい。そうして君を求めるものだけを生かしておけばいいんだよ』
「私を求めるもの、だけ」
『でもねぇ…こんな悲しいままの世界で、時をとめようとしている者がいるんだ』
「このままで…?冗談じゃない、私はもう一人のまま消えていくのは嫌だ」
『ああ!そう、そうなんだよ!…だから、そんな願いを持つ者は消してしまえばいい』
「一体、誰がそんな事を…」
顔の無い影が、笑った気がした。
『シンデレラさ。…ああ、君のご友人だっけ?』
名前と共に、豪華な城で寂しげに佇む彼の顔を思い出す。
「…彼が」
『そう。あの子も可哀相な子だからね…寂しさの余りに時を止めたがっている』
「なら、仕方ありませんね。…私が寂しくないように、してあげなければ」
あの人が居なくなってから空っぽだった心に、小さく明かりがついた様な気がした。
その明かりは団欒を照らす温かいものとはほど遠かったけれど。
『人魚姫、君ならこの世界の主人公になれるだろうね』
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ゆっくりと、時計の針は動きだす。
その時計が止まるのか、進むのか、壊れるのか。
瞬き一つ先のことですら、何が起こるかわからないまま。
To Be continued